スピーチネタの集め方

スピーチに必要な要素とは?

プレゼンテーションは、語るに足りない人には厳しく、語り足りない人には簡単なものである。

とかつて言ったのがドコの誰だったかはここでは書きませんが、スピーチネタに困らなくなる最大のコツは、語りきれないほどネタを持ってしまうことです。
この章では、スピーチネタのうち「Fact」、「Statistics」の収集法についてです。

2003年までの16年に渡り「NHKやさしいビジネス英語」の講師を勤められてきた杉田敏先生は、その放送初年度のある号のテキストの巻頭で、以下のように述べられています。

会話において大切なのは話をする「内容」をもつということです。いくら英語の発音がうまく、語彙が豊富で、文法的に文章を組み立てることができても、思考能力が貧弱だと会話らしい会話は生まれてきません。
これについて、ドイツの哲学者 Schopenhauer はこう言っています。
The first rule for a good style is to have something to say; in fact, this in itself almost enough.


逆に言えば、集めてさえしまえば、 "almost" ではありますが、 "in fact, enough" なのです。

そして、英検2次試験のネタ集めは、手際よく収集することに努めれば、そんなにたいへんなことではありません。


エトス、パソス、ロゴス

では、具体的にどう集めていけばよいのでしょうか?
やはり、杉田敏先生の著作物。「人を動かす! 話す技術(PHP新書)」から抜粋します。
(この本はコミュニケーション全体に対するやわらかい読み物としてもおすすめです)

コミュニケーションの目的が相手を動かすことである以上、そこに必要不可欠なのが「説得力」です。
ギリシャの哲学者アリストテレスは、説得力の要素は「エトス」、「パトス」、「ロゴス」の三つだと考えました。実はこれらは、コミュニケーションを志す人なら誰でも知っていなければならないキーワードです。


要は、「エトス」「パトス」「ロゴス」の要素となり得るような素材をちょこちょこと集めてくるだけです。
これらが適度に集まれば、とりあえず考えればスピーチは作れるようになります。そうなれば、あとは普段からネタを短い時間で使えるように整備された状態で手元に置いておき、組み合わせられるように訓練するだけです。

それでは、「エトス」「パトス」「ロゴス」とは何なのでしょうか?
上に引用した部分の直後、先生は続けています。

ところが、セミナーなどで聞いてみても、知っている人はほとんどいません。日本ではコミュニケーションをきちんと学べる機会が少ないですから、これは仕方のないことなのかもしれません。

あまり知られていないみたいですので、ここで大まかに述べてみます。
おおざっぱな解釈としては、
・「エトス」とは、相手に「この人の言うことなら聞く価値があるだろう」と思わせられる力
・「パトス」とは、相手の「その話には共感できます」と、心情的に納得させられる力
・「ロゴス」とは、相手を「なるほど、ごもっともです」と納得させられる力

と思っておいていただければ差し支えないかと思います。

「エトス」の部分は当日の服装とかスピーチの自己紹介の段階で「私は誰だ」とか「どこから来た」とか言うときのその態度、内容(いわゆる『第一印象』)によってまず大部分が決定され、スピーチ終了までの間に多少の変動をしていきます。
これをどう合格水準に持っていくかという話については、別の章で触れます。

ここで紹介するのは、「パトス」「ロゴス」を高めるスピーチネタ準備方法です。
同情してもらえるようなネタ、説得されてもらえるようなネタをになるようなものを探して、材料を集めてみましょう。


メモをとりながらドキュメント番組を観よう

僕がいちばん推奨するネタ収集法は、BS1夜22:00から放送されているBSニュース今日の世界 などのNHKで放送されるリポート系ドキュメント番組を観ることです。
(BSニュース今日の世界 については、 ここ を参照してください。他にもPBSニュースアワーなど紹介しています。)
英検2次のスピーチ対策という視点から見たリポート系ドキュメント番組の良いところは、ひとつの話題を掘り下げて扱い、多くの人間の違う立場からのコメントが観られることで、リポートの本来のテーマに直接関係ない話題に対しても使えるようなネタが沢山収穫できることです。

例えば、2003年11月28日のBSニュース今日の世界 のトピックスは下の3つでした。
・中国の経済成長
・韓国でのインターネット普及
・脊髄損傷で8年前に全身麻痺になり、そこから奇跡的な回復を遂げている俳優クリストファー・リーブへのインタビュー

番組は二ヶ国語であらかじめ録画しておき、自分の観やすい時間にメモを取りながら観ます。
実際にメモを取ってみたので、参考にしてみてください。(あくまでメモ例です。記載内容の信憑性は保証しません)

中国の経済成長の話題は2つのパートに分かれていました。まず、現地中国でのBBCのリポート。

1.中国では、年率8−9%の高成長が続いている。
2.cheap labor fee, migrating from country side.
3.77ponds(15,000yen)/month
4.400 millions are waiting for the jobs
5.所得格差が恒常化する(都市部100,000yen/month, 農村部 30,000yen/month)
6.as china's market grow, we grow (executive of a Chinese cellular phone maker)
7.China is the leading supplier in PC, camera, Mobile phone fields
8.exporting deflation for all over the world
9.旧満州の東北地方ですら、日本に支援を求めている → かつては考えれらなかったこと、時間の経過、経済機会、所得格差

続いて、BBCが中国経済の発展による米国への影響。

10.アメリカの子供が一緒に育つBig Bird のぬいぐるみも今日では made in China
11.米国の対中貿易赤字は、2002年103billion, 2003年 120billion。
12.ウォルマートだけで、米国の対中国貿易赤字の10%を担っている。
13.中国では労働に規制がなく、環境に対する配慮も欠いている(米国企業のエグゼクティブのコメント)
14.中国と米国はかつての日本と米国に比べて相互依存が強い。中国が材料を輸入し、米国企業が中国で作った製品を輸入している
15.かつての米国とメキシコの関係が、米国と中国の関係になろうとしている
16.中国製品の流入により、ノースカロライナでは68,000人の失業者が生じた
17.これは price と job の trade off である
18.このウン十年で、米国の農業従事者は60%から数パーセントまで減少した
19.Simply technolgy has reduced labor force necessary in the assembly line

最後に、経済評論家をまじえた解説

20.賃金が上がらない構造である限り、労働集約型産業では中国は無敵
21.ロシア崩壊により、中国の資本主義化に「後ろ指を差す」ものがいなくなった
22.かつては賃金と価格が同時にあがるインフレーションが当然のものだったが、中国が低コストで製品を作りつづける限り、これから25年ぐらいはデフレ社会でありつづけるだろう
23.インドが工業化を遂げれば、これも同様になるだろう
24.日本としては、まともにコスト勝負になるような competition は避けて自らの強みを探るべきだろう


このトピックスは、主に「ロゴス」のネタに使えます。

ドキュメントの総括的に得られた知識・考え方としては
・中国製品の低コスト構造は、農村部に潜在的に 400 million も存在する安価な労働力によって成り立っている
・賃金が上がらない構造である限り労働集約型産業では中国は無敵
・価格、給料のインフレトレンドを崩壊させたのは90年以降の中国経済であり、これはこの先四半世紀ぐらいは続くだろう。
・ロシア崩壊が中国経済の活性化につながっている
・インドが工業化を成し遂げれば、それこそエラいことになる。
なんてことぐらいを押さえておけば、十分。
こういう話題をモロに使うときは、
・1、3、5、11、12、16といった statistics は、全部覚えておく必要も使う必要もないが、スピーチの中でちょっと出せば急に説得力が増します。
・7のようなことも "fact" として提示できれば、一発で信頼性が増します。
・6、8、といった言葉は決め言葉として使えます。何度か自分で言ってみて、モノにしてしまいましょう。

このネタで収穫できたのは、単なる中国経済の発展だけに留まらず汎用性の広い話題です。
例えば、
2.や4.は、コスト構造における人件費の重要さを訴えるときの例証に使えます。
5.は、所得格差も就労へのモチベーションの動機になるという具合に日本の総中産階級的な意識や年功序列制を批判するときにも使えます。
7.は、知識として知っておくと何処ででも使えます。
9.東北地方が日本への援助を求めるようになったというネタは、単に「所得格差を消すために躍起になっている」という例だけでなく、「戦争が作った歪が時間で解決される」とか「経済的な合理性は地域感情に優先する」といった例でも使えます。
10.も、「経済のグローバル化」の象徴としてちょっとした example として面白いです。
12.は、「米国巨大企業がいかに大きな影響力を持っているか」という例として米国オンリーでも、グローバル経済ネタでも使えます。
13.などは、どこかで中国が環境関連で問題を起こしていたら、「中国は労働規制でも遅れているし、環境でも遅れている」というやり方で話を膨らますネタにできますし、中国経済に対する先進国からのやっかみという使い方もできます。
14.などは、中国が成長していることを引き合いに出して「高度成長期の日本と中国ではここがこう違う」という切り出しから「日本はこうあるべきだ」という話の方向に持っていくときに使えます。
15.とあわせて、「中国の世界の工場化」とか、「中国のメキシコ化」とか思い切った言い方をするときのネタに使えます。
17.の price と job の trade off という考え方も面白いです。この場面では、安い中国製品の流入で失業が生じるのとダンピング関税をかけて失業が生じない代りに商品の値段が上がることのどっちを取るかという話の方向だったのですが、どういう風にも使えそうですね。
18.の statistics は産業のサービス化なんていうネタにも使えそうです。
19.は重労働からの解放に technology が果した役割についての決り文句として使えそうです。
21.は、「社会体制と生産性」とかいう話題で使えそうです。
22.は、デフレの話になれば必ず使えます。
23.は、いきなり「私は個人的にはインドに着目している」という具合に突拍子も無い話の振り回し方をして自分のペースに引き込むのにも使えそうです。
24.は、「日本はどうやって不景気を回復するのか」というような話題になったとき、どうして今の日本はやられ気味なのかという話をするときに使えそうです。


それから、韓国インターネット事情は省略して、クリストファー・リーブ(元スーパーマン)のインタビュー。
こちらは、「パソス」の宝庫でした。

この人、8年前に落馬して脊髄を損傷し、自分で息もできないほどに麻痺してしまい、医者も「ダメだろう」と思うような状態だったのだが、懸命なリハビリで、触覚、嗅覚を含め一部の機能が回復してきて、このほど、危険な手術を乗り越えて自分で呼吸できるようにもなったのだそうだ。
リポーターは、ずっと彼を追っていたBBCの女性リポーター。

1.記者会見の場面「全米で5,400万人の障害者がいます。政府は彼らに最大限の保障をしてください」と訴える advocate
2.脊髄損傷の side effect で髪がすべて抜け落ちている
3.12%の感覚しかなかったのが、今では70%まで回復した
4.夜ひとりでいるときに呼吸器がはずれ、助けてもらうまで「陸に上がった魚のような気分になって、不安だった」と不安だったっぽく語った pop off, ventilator
5.危険を冒して呼吸器をはずす手術をし、あとで呼吸できるようになって思った。「ずっと横隔膜を鍛えるトレーニングをしてきてよかった。」と
6.BBCのリポーターから薔薇の匂いをかがされて、「いい匂いだ」と満足そうに微笑んだ。リポーターも喜んでいた。
7.「健常なのに『paralyzed』な人たち、努力すれば前に進めるのに言い訳ばかりで動かない人を見ていると、もどかしくなるんだ。『Oh, come on, go for it!』ってね。」
8.8年前に事故で動けなくなったとき、自分のせいで家族を不幸にしてしまったと思ったんだ。でも、今は子供も成長して、妻も自分の仕事をしてくれていて、幸せだ。
9.クリストファー・リーブの健康維持には多大な金額がかかる(4,300万円/年だったかな?)
10.政府への lobby 活動、世界各地での講演会などの活動が認められ、医学の発展に貢献した人に与えられる賞である Lasker Awards を受賞した


・著名人はすぐ具体的にイメージが浮かぶので、「近所の目立たないおじさんが」というよりよほど説得力があります。また、著名人のエトスを借りてくるだけで、あなたの言うことも急に説得力が増してきます。「あの有名人がこう言った」という言い方は、是非できるようにしておきましょう。
次に説得力があるのが、「自分はこう大変だった。」その次が、「家族がどうこうになったとき、自分はこう感じた」というタイプの内容。著名人より「エトス」は劣りますが、自分自身のAnecdoteであることが強みです。感情をもって相手に訴えけましょう。試験官に自分の家族になぞらえて聞いてもらえることに成功すれば、「パソス」の部分で成功しやすくなります。
・「パソス」に訴えるときは、感情、感覚に直接訴えるような逸話(anecdote)が効果的。このクリストファー・リーブの例ならば、「薔薇の匂いをかいで」とか、「呼吸器が外れて」とかいった場面で、彼がどういう表情で、どういう調子で語っていたかなど描写することがポイントです。試験官に彼の感情を想起させることに成功できれば、かなり印象的でしょう。
・「どの程度」という時には、やはり statistics は効果的。「一時は絶望しされていた彼が12%から70%まで感覚が回復した」とか、fact 「人工呼吸器がはずれた」「今では障害に苦しむ人のために闘っていてる」というような話題を彼の意志の強さと絡めて描写できれば、これもかなりグッド。「それが認められ、賞を受賞した」と言えれば、なおグッドでしょう。

このネタも、単なる医療、福祉、障害ネタに留まりません。
・「生きることの強さ」「自分との闘い」「懸命な努力が実る」云々とかいうときに5.の例を持ってきて彼の不屈の闘病ぶりを引き合いに出したり、
・7.の発言を現代人を叱咤する云々というときの引き合いに出したり、
・(事実かどうかはともかくとして)「苦しいときは彼のことを思い出す」云々と言って引き合いに出す等でも使えます。
他にも、家族の協力がどう、絆がどうとか、あきらめないことへの引き合いでも、自身の回復も世間に与えた影響でも使えそうです。
努力と功績とかでも使えそうなネタでもあります。

(ちなみに、ラスカー賞の綴りが分からなくて今調べてみたのだが、どうやら、利根川進博士もかつて受賞しているようです)


とまあ、こんな具合にして、「パソス」「ロゴス」を高められるような素材を収集していきます。

このような集め方に適したリポート系番組として、他のお勧めとしては。

・PBSニュースアワー 番組中盤以降のミニドキュメントに使えるネタが出てくることが多い。
米国の現状、グローバルな話題についてのリポート、どちらもよく出てくる。
ただし、BSニュース今日の世界 と違い、リポートの終わりにまとめ等がでてくるわけではなく、ネイティブ向けの放送でかつリポート番組なので、運用語いにするにはちょっと難解な表現も多くでてくるので、加工しにくいキライがある。
2次対策のために観るのであれば、間違っても、毎日カバートゥーカバーで観ようとか考えないこと。冒頭の有識者を呼んだ突っ込みの甘い質問会のところで退屈して挫折するのがオチだ。
・7時のニュース、10時のニュース 番組中盤のリポート系が、ニッチな市場に目をつけた新しい商売をしている経営者とか、○○さんは失業していてこんなに大変とか、教育改革でこの学校では今こうなっている、それについての Pros and Cons はこうなっているとか、そういう内容である場合が多い。話題が日常的だったり身近だったりするので、これはこれで使いやすい。
上にあげたような番組が割とグローバルなのに対して、こっちはドメスティックなのが特徴。好みの問題とも言える。自分がやりやすそうだと感じるほうを選んでそっちを主に観るとよいだろう。
副音声で放送される英語の語いレベルも高くない。「これは自分でも言える」というような表現をたくさん採集できる。

なんていうのが、すぐに思い当たります。NHK NEWS WATCH も「7時のニュース」などと同様。
NHK二カ国語系ニュース番組は英語も簡単なので、試験前には癒し効果もあるかもしれません(笑)

いつもいつも使いやすい材料が放送されるとも限らないので、放送は毎日録画しておき、使いやすそうなものだけを観るようにするというような工夫が必要です。

今回のメモではあまりありませんでしたが、ノートにメモるときには、聞き取れた単語、フレーズも余裕があるかぎりどんどん記入しきましょう。
同じトピックで使われる単語、構文、決り文句等をひとまとめにして覚えておくと、スピーチをやりやすくなるし、別途用語集を入手してそれだけまる覚えにかかるより、よほど簡単だからです。
(メモっておいた英語をどうやって覚えるかについては後ほど)

まず、過去問なり、スピーチトピック集なりに早めに目を通しておき、どんなテーマがあるのか知っておくこと。
それから、そういう視点でどんどんネタをひっかけていくわけです。

当然のことですが、この方法でネタのストックをするときは、集まってきたネタのストックの棚卸をちょこちょこ実施し、ときどきはスピーチ過去問等や予想問題等も眺めなおし、今すでにあるネタのストックがこれまでに気がつかなかった切り口で使えないものか、とか検討していきましょう。
もちろん、作れそうなスピーチについては、作ってみてもよいです(作り方は次回以降)。

ネタがストックされ、スピーチの骨格みたいなものが見えるようになってくるに従って、スピーチの展開についてのイメージも次第に明確になってきます。
あと、こういうことをやるときは、作業すること自体を目的にしてしまわないように。あくまで、2次対策のためにしているだけです。
今の自分が何を必要としているのか正確に把握することにいつも努め、それに向かって最短距離で進んでいこうとすることが大切です。英検に限った話ではないですね。


というわけで、次はスピーチの作成方法へ。

2003/12/03


「英検1級ベストアプローチ」での書評等は、すべて英検1級受験対策として役にたつかどうかを作者が主観的に評価しているだけのものであり、それ以上のことは一切評価には入れていません。


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