病は気から?


自分と同じ病気で、しかも僕より重症で、しかもいつも機嫌の悪そうな隣人が同じ大部屋の隣のベッドだったりするとちょっとやりにくいのではないか、とか考えたことがあるだろうか?

医者にも看護婦にも、彼はなにかをぶつけるようにぶっきらぼうに物を言う。
「ゴハン、食べましたか?」
「サンブンノイチ。」
「具合、どうですか?」
「キモチワルイデス」
「明日、検査ですよ。」
「ソウデスカ!」

そうとう具合が悪いようだ。目つきも恐い。


そんな彼と、今日トイレではちあわせた。
「ポセイドン」にいつもの点滴のパックをぶらさげて、彼はいちばん奥で用を足していた。

その前に一度だけ洗面台で会話したときの彼の対応は普通だったのだが、彼の目つきをみると、僕はやっぱりいろいろ躊躇してしまう。
でもまあ、引き返すのも変か、と思い、僕はその隣で用を足した。

彼は先に用を終えた。僕はちらっと声をかけてみようかと思ったが、結局なんとなく躊躇した。
彼は悪い人ではない、とは分かっているのだが。

僕は、彼が僕の背中側を通過するとき、その「ポセイドン」で背中を突かれるのではないか、と、ちょっと身震いした。「ポセイドン」はその持たれる人物の雰囲気ひとつで、あてもなく徘徊する病人のアクセサリーから狂暴な攻撃兵器へと、その見かけ上の性格を変貌させるのだ。


高校2年生のころだったか。1年生のころだったか。僕はある朝、登校中にお腹が痛くなった。朝起きたときからそうなる予感がしていたのだが、学校に着くまでに案の定お腹が痛くなった、というところだった。

ちょっと遅れ気味で校舎に着いたのはいいが、僕は上の方の階にある僕のクラスの教室に行くのにずいぶん難渋していた。

そこに、新任で入って来た現代国語の先生が歩いて来た。
ひどく暑苦しいことで有名な男だった。

彼は僕にたずねてきた。
「こねくん、どうしたんだい?」
「いや、あの、お腹が痛いんです。たぶん、カゼです。」

脂汗をかきながら僕はそう答えた。
すると、彼はまるで、
「誰かこういう人間が自分の前に現れてくれるのを待っていた!」
とでもいうかのような喜びをその目の奥に浮かべ、にわかに意気揚々と述べだした。

「いいかい、こねくん。『病は気から』と言うんだ。そんな痛みは、気のせいなんだよ。君がそう思うから、君のお腹は痛くなるんだ。」

脂汗を流し、お腹をおさえながらそれを聞いて、僕は「オマエ、死ね!」と思った。


トイレを出るとき、僕はフと彼のことを思い出した。

僕は思う。
もし、彼が今僕の隣人に同じことを言ったら、「オマエ、死ね!」と思われるだけでは済まないだろうな、と。

01/05/17


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