無念 大友克洋


「モンスターの眠り」を手に取ったとき最初に目についたのは、

「監修 大友克洋」

の文字だった。

そして表紙をめくったときに次に目にとまったのは、挿入された、何枚かの日本語の書かれた紙。
ひとつはこの本のうんちくが書かれているようだった。
もうひとつは正誤表。パッと見、ちょっと誤りが多いな、という印象を持った。

うんちくの紙を読んだ。
まず目に留まったのは、大友克洋のコメント。「監修について」というタイトルだった。

フランスとの同時出版という事情のため、監修に充分な時間をいただけなかったのが残念ですが、ビラルの作品が日本で刊行されることの意味は大きいと思います。

たったそれだけだった。
続けて、その下に翻訳者のコメントが載っていた。

97年初来日したビラルは大友克洋氏と対談を行なった。すぐに意気投合して夜遅くまで話が弾み、当時制作中だったこの作品の監修を大友氏にお願いすることになった。翻訳後、大友氏に目を通していただき、ご助言をいただいた。原出版社の進行の遅れのため厳しいスケジュールとなり、編集者も翻訳者も非常に苦しい思いをしたことを、一言申し上げておきたい。

前半部は省略したところもあるが、「翻訳後」以降は原文そのままだ。


大友克洋氏と言えば「アキラ」。世界でブームを起こした全5巻のSF大作だ。
ヤングマガジン誌にときおり連載されて中断、のくり返しを10年以上?よくわからないが、とにかく延々と続けて、とにかくすごいマンガを描いた人だ。「アキラ」は映画化され、国際版なんかも作られた。
大友氏は、日本が誇る文化人と言って差し支えないと思う。

彼の作品への情熱は、「AKIRA CLUB」という本によく凝縮されている。
この本の前半部は「アキラ」周辺の話題なのだが、後半部は、言ってみれば「アキラ」の「めいきんぐ・おぶ」本だ。

読んでみれば分かる。
地下組織の連絡役を当初予定していたオジさんではなくキヨコにした背景とか、ガレキを描きすぎないようにどう気をつけたとか、国際版を作るときにフキダシの位置の関係上大佐スーツの絵を描き直さなければならなかった、とか、週刊誌連載のときには次週に読者を引き付けるために鉄雄にこういう表情をさせたが単行本では話の流れを意識してこういう風に修正したとか、後半のクライマックスのシーンの絵の配置を単行本で入れ替えたのはこうこうこういう事情だったからだとか、ここでミヤコ様にこういうセリフを言わせたのはバックグランドで彼女にこういう心境があるからだとか、そういう話のオンパレードだ。

これを読むと、「創る人、大友克洋」のこだわりがよく伝わってくる。
それは間違いなく、当然出版社の直近の事情よりも優先されるべき、自分が手をかけるものへの意識の高さだ。


「本作品は10ヶ国同時出版だ」
この紙には太字フォントでそういう趣旨の見出しが躍っていた。

監修を任されたマンガに充分に時間をかけることができなかった。
納得いくだけの手間をかけられないなら監修など降りてしまいたいとすら思ったかもしれない。

僕は、このエンキ・ビラルの本に挟まれた紙の中のわずか2行のコメントに、訂正だらけの本に対する大友氏のなんとも言えない無念と失望を感じた。

01/06/30


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