ありがちな間違い


起床は5時だった。いつもどおりに支度して、まずトイレに行った。
トイレでは失敗した。紙コップにとるべきものを全部機械に入れてしまった。ありがちな間違いだが、紙コップを持ってくることすら忘れていたことが、今回の特徴だった。

やれやれ、と思いながらロビーに来た。空には月が見えていた。満月より何日か経ったというところで、西側が欠けている。

(そういえば、部分月食があったらしいな)

僕は日記のノートのページを開いた。

7月10日(火) 5:00
日付を入れて時刻を入れたところで、もういちど空を見てみた。雲らしいものは見当たらない。僕は「快晴」と書こうと思った。

「情」

間違えて一文字でそう書いてしまいそうになり、ほとんど書き終えたところで気がついて僕はすぐに横棒を2本入れて、注意して「快晴」と書き直した。
「快」の片と「晴」の作りを一緒にしてしまった。よくやってしまう間違いだ。
今日はありがちな間違いが多いと、僕は思った。

今日の工事はむこうの信号のところからこっち向きに内側車線をやっているようだった。
まだ工事用車両は健在で、信号のところのいちばん後ろにいる車両は黄色い警告灯を回転させている。
どこまでだろうと思って見てみると、なんとそれは病院の下の交差点のところまでそれは続いていた。交差点のところに、アスファルトが皮膚科の移植手術前のように長方形にめくれた部分があり、作業員が何人かで動き回っていた。よく見てみると、工事区域であることを示す三角コーンは、眼下の交差点からさらに先まで続いているようだった。その先までは調べなかった。


日記を書いていたら、看護婦さんが来た。行動の前後がいつも他の行動とつながっていて、人の話をちゃんと聞かないヤツだ。
昨日の夜の検温のときは、彼女は僕に体温を測るように言って体温計を渡したっきり、消灯時間まで戻ってこなかった。

左腕で血圧を測定しているとき、僕はトイレで朝イチの尿を機械に全部入れてしまったことを彼女に告げた。
「ああ、そうですか。じゃあ、新しく紙コップ持ってきますね。」
あさっての方を向きながら、彼女はそう答えた。

紙コップはいらない、と僕は答えた。
どうして彼女はそういうことを言うのだろう。取り忘れた、と言っただけだ。
僕が紙コップを必要としていると感じた彼女の根拠な何なのだろう?
あさっての方向にだって、そうは書いてなかっただろうに。

工事車両は、6時15分には完全撤退してしまった。

ラヴェルのばよりんソナタト長調を3回聴いて、モーツァルトの41番を聴いた。
ラヴェルは友達が新しく持って来てくれたもので、前から借りているものとは違うCDだった。
朝になったらロビーでゆっくり2枚を聴き比べようと思っていたのだが、今朝ロビーに来て見てみると、CDの入ったラックにはそのCDはなかった。部屋に忘れてきたようだった。

(ありがちな間違いだ)

僕は、そう思った。

ロビーから部屋に戻ったのは、7:30も過ぎてからだった。

01/07/10


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