イキケ
褐色の空 混濁の海
絶望の砂漠は続く

焼けつく息の中
誰かを待った

僕らは取り残された
そうして水の匂いを懐かしむのだ

ありふれた砂の渦にも似た
葛藤の香りに喘ぎながら

イキケへのフライトが近づいていたのに、荷物の整理は一向にすすみませんでした。
南米でのいちばん長い旅行のための新しい買い物を放っておいて、新しく出来た友達とサンチャゴで遊んでいるうちに、フライトの日がやってきてしまいました。
結局出発の日の朝までぐずぐずしてしまいました。僕は一睡もしないまま早い時間に出発して、空港行きのバスが走る通りまで行きました。
イキケ経由アリカ行きの飛行機に乗り込むと、僕はすぐに寝てしまいました。

ふと目覚めると、何人かのスチュワーデスが座席の確認をしながら歩いていました。
ちょっと寝ぼけながら脇の小窓を見ると、どうも飛行機はもう止まっているようでした。
となりの席にいた客が、何かを言ったような気がしました。
アリカ行きのこの飛行機は、もう中継地のイキケについていたようです。ここで降りるべき乗客は、もうみな降りてしまっていたようでした。
僕は寝ぼけ眼をこすりながら、重い体をひきずってタラップを降りました。

砂漠、でした。ひたすら。
タラップを降りると、飛行機、小さなターミナル。
あとは、全部砂漠。草一本生えていないし、日射しが強いのです。
といっても、乾燥しているので、特別暑くはありませんでした。
ただ、サンチャゴのきちんとした空港が直前の記憶だったので、ひどく抵抗感がありました。

「ははぁ。これが、話に聞いていたなんにもない空港というものか。」
僕は、以前に友達から聞いた似たような状況の話を思い出しました。
そういえば彼も、アリカだかどこか、アタカマ砂漠の空港を指して、
「空港。砂漠。おわり。」
などと言っていました。

小さなターミナルを出て、コレクティーボ(乗り合いタクシー)に乗って街に向かいました。
道はまっさらで空は快晴でした
車は真っ白い砂の山の間のような道を走っていきました。
「この山って、サンドスキーとかできるんですか?」
僕は何気なくその車の運転手に聞いてみました。
「ムリだね。岩がたくさんでていて、ゴツゴツしているから。」
彼は答えました。どうやら、遠目に見えるほどきれいな表面ではないようです。

しばらく走ると、海が見えてきました。街も見えてきました。イキケの街です。
僕が彼に、「どっか適当な安い宿のところまでつれていってよ。」
と頼むと、彼は車を街の教会の正面、その道の向かい側で止めました。
彼にちょっとおおめのチップを渡して、僕はコレクティーボを降りました。

そうして、その宿の茶色くてちょっと大きい、しっかりとした手応えのあるドアを開けました。
乾燥した地域の日かげ特有の、ひんやりとした感触の空気が僕の頬に流れ込んできました。
レジデンシアの中庭には吹き抜けの天井から日射しがやわらかくさし込み、きれいな花のたくさん植えられていました。

(写真1)
空港。なーんにも、ないのです。




(写真2)
イキケの街並みを、ちょっと遠くの山から。向こう側に海が見えます。




(写真3)
ピンタードス。この一帯には、大小の地上絵の書かれた山肌がいくつか見られます。かなり古いものらしいのです。この写真のものは、王とその家臣などを表しているようです。詳しい解説も聞いたのですが、残念ながら、スペイン語が難しくて、僕には詳細は分かりませんでした。

(写真4)
なんにもない砂漠の道。真っ直ぐな道を走る車から見ていると、あちこちでたくさんの砂の渦がわき上がっていました。



(写真5)
ハンバーストーン。イキケ近郊の「遺跡」。かつての鉱山の街。いまは完全にゴーストタウンになっています。





(写真6)
ジャングルジム。いまにもそこから子供が走ってきそうです。
このあたりの鉱山の街は、19世紀から今世紀初頭にかけては、大いに繁栄したそうです。



(写真7)
ハンバーストーンの建物の内部。いまでも普通の生活の一部のような迫力です。
それでも、なんにもない砂漠の街なので、人っ子ひとりいません。ここにいても、食べ物も水も手に入らないのです。世をはかなむ人だって、ここでは暮らせません。


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