所在なき歌
ゆるやかな坂道を抜け苔むした石段を登りきると時計台の針が無造作な午後を告げた
空のどこからかプロペラ機の飛ぶ音が聞こえてきた
山道にはカケスの鳥が鳴いていた

丘に見おろす街並みはかつてのそれとまったく同じだった
あとは春の風が吹くのを待つばかりのこの土地に
どうして私がもはや昨日と同じ歌をもういちど聴くことがあろう

子供らが遊んでいた
天気はおだやかだった
私はかつて森の枝影に消えてしまったボールのことを思い出した

春風の気配はすぐそこまでやってきていた
季節は変わりそして私はまた遠く思いだすのだ
所在なき古き歌のことを

風が吹いていた ああ風が吹いていた
空にはいなくなった飛行機の影が薄れるばかり
山道にはカケスの鳥の鳴くばかりだ


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