港で揚った死体

港の倉庫街で死体が揚ったという通報を受け、ベテラン警部チャーチルとその新米部下トムソンはその現場に駆けつけた。
現場に到着した彼らが目にしたのは、あるびよりすとの死体だった。
トムは警部に聞いた。
「やはり他殺でしょうか?」
「ばかな!動機がない。びよりすとなんて、殺しても何の得にもならないぞ。」
「それでは、自殺でしょうか...?」
「自殺をするのは、人間だけだ。」
警部は吐き捨てるようにそういって、なにか小声でブツブツとつぶやいた。死体を前にしてこんな調子の警部を、正義に燃える若き警察官トムははじめて見た。

しかし、彼はもういてもたってもいられないという様子で力強く言った。
「とにかく、初動捜査をしましょう。僕が聞き込みにいってきます!」
すると、警部は彼を制止した。
「死体がびよりすとのものであると知ったいま、なぜ捜査の必要がある?」
警部はそう言い、そして遠くを見ながらトレンチコートの襟を立て、シガレットケースから愛用のタバコをとりだすとゆっくりとくゆらせはじめた。
「え?」
トムは驚いて、警部の顔をみつめた。そして、その目をのぞきこんではっきりと悟った。

彼の頭の中にはびよりすとの死体への興味はもうないということを。そしてもはや彼の頭の中には、今晩彼のワイフが作る特製のローストチキンととびきり胡椒の効いたオニオンスープのことしかないのだということを。


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