ある朝、グレーゴル・ザムザがなにか気がかりな夢から目をさますと、自分が寝床の中で一匹の巨大な虫に変わっているのを発見した。彼は鎧のように堅い背を下にして、あおむけに横たわっていた。頭をすこし持ちあげると、アーチのようにふくらんだ褐色の腹が見える。腹の上には横に幾本かの筋がついていて、筋の部分はくぼんでいる。腹のふくらんでいるところにかかっている布団はいまにもずり落ちそうになっていた。たくさんの足が彼の目の前に頼りなげにぴくぴく動いていた。胴体の大きさにくらべて、足はひどくか細かった。

「これはいったいどうしたことだ」
と彼は思った。夢ではなさそうだ。見まわす周囲は、小さすぎるとはいえ、とにかく人間が住む普通の部屋、自分のいつもの部屋である。四方の壁も見なれたいつもの壁である。
テーブルの上には、昨日練習のあとそのままにしてあった"ブランデンブルグ協奏曲第6番第3楽章"のびよらぱーとの楽譜がちらばっている。
---ザムザはびよりすとであった。---

グレーゴルは窓の外を見た。陽気な天気は今の彼の気持ちそのものだった。
彼はまだ少々眠かったが、もうひと眠りしてこういう途方もないことをすべて忘れてしまおう、とは決して思わなかった。

「これでもう、誰も僕を『びよりすとだ』ってバカにしなくなる・・・」


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びよらじょーく
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