2002年、3月12日の帰り道、僕はパソコンで録音した「NHKラジオ英会話」を net MD で聞いていました。いつの放送なのかは分かりませんが、僕が聞いたそれは、英国に伝わるちょっとしたじょーくを紹介するものでした。

11人の賢者が川に釣りに行ったが、帰り道に数えてみると、1人足りない。誰がどう数えても足りない。実はおのおのが自分を数え忘れているのだが、気がつかない。大騒ぎしていたところに警官がやってきて、彼らが取ってきた魚とひきかえに問題を解決する

だいたい、そんな内容でした。家に帰って、僕はその話をモチーフにして、「執事の証言」というタイトルをつけてアップしました。
自分を数え忘れているのを11人の賢者から1人のびよりすとに置きかえ、そのびよりすとの証言が殺人事件の捜査において重要な鍵を握るという設定にし、刑事ものということでひさしぶりにチャーチルとトムソンにもご登場いただきました。
役者だけそろえたら、あとは勝手に話ができあがりました。


「...そうなんです、チャーチル警部。マーガレットさんの寝室から悲鳴が聞こえたとき、私はとっさに部屋の中にいたすべての人の姿を思わず確認しました。そして気がついたのです。『ここには全部で11人がいなくてはならない。なのに、何度数えても10人しかいない。』とです。」
「でも、それが誰だかはわからないと。」
「そうです。それが、とても不思議でした。」
「で、ジェファーソンさん。あなたは、続けてこうおっしゃりたいのですね。『この別荘にそのときいたのは12人。マーガレットさんを除けば11人だ。しかし、あなたが姿を確認できたのは10人。そのときパーティに出席していたうちの1人はアリバイがない。パーティに来ていた誰かがマーガレットさん殺しの犯人だ、と。」
「いや、まあそういうわけでもないですが...。この別荘の立地を考えれば、それしかないのではないかと。私も長く執事としてこの家に仕えております。別荘のこともよく知っております。」
「そうですか...。」
警部はシガレットケースから愛用のタバコをとりだすと、ゆっくりとくゆらしはじめた。退屈で仕方がない、という雰囲気であった。
「ところで、ジェファーソンさん。あなたはたしか、びよらを弾かれるんでしたね。」
「ええ。ちょっとしたメンバーで四重奏をやっております。」
「ちょっと、そのメンバーをこの部屋に集めてもらえますかな?いや、その中に犯人がいるというわけではないんですけどね。まあ、ちょっとした実験をしたいと思いまして。」

「...警部、さすがですね。もうそこまで犯人像を絞り込んだんですか?僕には、まだ何も分かりませんよ。」
トムソンは警部に話しかけた。警部は、まったく退屈だ、という表情で吐き捨てるように言った。
「すぐに分かるさ。」

「チャーチルさん、おっしゃるとおり、メンバーを集めてまいりましたが。」
「そうですか。どうも。ご苦労様です。ああ、みなさんもどうもご足労ありがとうございます...。いいですか、ジェファーソンさん。ちょっと、お願いあるんですが。」
「はあ、何でしょうか?」
「なに、ちょっとしたことですよ。この部屋にあわせて今何人の人間がいるか、数えてもらえますか?」
「ええ。おやすい御用ですとも。まず、チャーチルさんとトムソンさん、それからばよりんのスコットさん、ラムスフェルドさん、ちぇりすとのホーマーさん...。この部屋にいるのは、全部で5人ですね。」


細かいところもう覚えてませんが、だいたいこんな内容でした。
この段階では、現在の「執事の証言」と若干内容が異なっています。

1.マーガレットがどのように死んだのかが描かれていない
2.密室トリックになっていない
3.オチのあとの「え?」「え?」という反応がない

1.については、僕が興味がなかったので書きませんでした。何が起こったのか僕も知らなかったのです。
2.については、そこまで考えてませんでした。本来のオチの方向とは直接関係のない部分でしたから。
3.については、これで正解。もともと単体の作品だったので、オチのあとのセリフは不要でした。

びよりすとの証言などアテにならない、というところだけ書ければこのネタは終わりのはずでした。


ところが、これを書き上げてから、なんだか僕にはずっとひっかかっていたものがありました。
それは、チャーチルのセリフ、

「すぐに分かるさ。」

というものでした。
当初、僕はこのセリフは「一見無関係と見られる3人を呼び出したこと」ついて言っただけのものだったのだろうと思っていたのですが、そうとらえるには言葉の流れがちょっと不自然です。
別の言葉に置きかえてみようかとも思いましたが、彼がそれを望んでいる様子もありません。

「このセリフまわしから鑑みると、彼にはもう、僕の知らないところで本当に犯人の目星がついているのかもしれない。」
そんな気がしました。敏腕刑事チャーチルのことです。そういう線も、考えられないことはありません。僕はもう一度この物語のバックグランドについて考えてみました。
「いったい、どんな事件があったのだろう?」
「そして、犯人は誰なのだろう?」
今度は、僕はチャーチル思考の過程を追いかけていきました。


犯人の目星はすぐにつきました。こういう話には、大どんでんがえしがつきものです。ということは、他にたいした登場人物もいませんし、執事のジェファーソン以外に考えられません。
でも、彼にはアリバイがあります。なにしろ、マーガレットの部屋から悲鳴が聞こえてきたとき、他の全員と一緒にパーティ会場にいたのですから。

どういうことなのだろう?ジェファーソンはどんなトリックを使ったんだ?
マーガレットは、どうして悲鳴をあげたんだ?
いろいろ考えてみたのですが、すぐには何も分かりませんでした。

次の日、僕は、晩ゴハンを食べながらぼんやりテレビを観ていました。
すると、テレビで、なかなか興味深い事件が紹介されました。
あらかじめ被害者に摩擦の刺激で発火しやすいように仕込んだ服を着せておき、加害者は別の場所でアリバイを確保していたというのがその内容でした。
米国で実際に起きた事件だそうです。

(なるほど)

時限式の仕掛けを作っておいて本人はアリバイを確保する、というところか。
ジェファーソンもそんなトリックを使ったのかもしれない、と思いました。

すると、そう思った瞬間、悲鳴についても解決しました。「悲鳴」といえば、「そぷらの」です。僕は、やはり数日前にNHKラジオイタリア語講座で紹介されたばかりのオペラ「トスカ」を思い出しました。このオペラは「動物のお医者さん」でもネタに使われていてとても印象に残っていました。トスカはそぷらので、話の最後で飛び降りて死ぬのです。

「マーガレットはそぷらので、歌って飛び降りて死ぬ。」

なるほど、そういうカラクリだったのか。


チャーチルの活躍がはっきりしたので、僕は事件の解決編にあたる「執事の証言 その2」を書きあげました。あとは、「その2」に自然な流れで入っていけるように必要な材料を「執事の証言」に挿入しなおしただけです。マーガレットの死因について触れ、チャーチルの事件解決を盛り上げるために密室トリックの要素をとりいれ、連作として一気に読みたくなるようなはずみをつけるべく、「え?」「え?」(つづく)と言葉を入れました。

でもこの話、ジェファーソンの動機について何も触れてないんですよね。
そもそも殺意があったかどうかも疑わしいし。

なんで新たに「その3」を作ってその件について触れてみようかとも思いましたが。

やめました。
ジェファーソンが逮捕された今となっては、僕にとって興味のある話題でもないんで。

びよりすとのせいにしておいてとりあえず捕まえちゃえば、それで大団円です。

02/03/15


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