将棋の時間、囲碁の時間

将棋の時間、囲碁の時間

NHK教育テレビで、NHK杯将棋トーナメントを見た。日曜の朝のひとときをこうして将棋を見ながら過ごす、というのも考えてみれば久しぶりだ。すべての納期から開放されて、いまは気楽な気分だ。

途中から見たので序盤戦の詳細は分からなかったが、対局では相矢倉戦から入玉を目指した富岡栄作の玉を、郷田真隆見事に討ち取った。

本来喜ぶべき勝ったほうが難しそうな顔をして、本来悔しがるべき負けたほうは必ず先にニヤニヤと笑いだす、
というのは、将棋や囲碁の投了の場面を見るたびに僕の親爺がうれしそうな顔をして必ず指摘することだ。彼にはそれがとてもたまらなくおかしいらしい。
そう思って見ていると、僕にもやはりおかしい。

久しぶりに見た富岡栄作はちょっとフケこんだ感じになっていて、そのせいでかえって、20代の僕の友人の複数によく似た風貌になっていた。


僕は一度、NHK杯囲碁トーナメントで趙治勲の"切れ負け"を見たことがある。秒読みの間に着手できなくて負けてしまうアレだ。当然ながら、それはとても珍しい。
数年前の準決勝ぐらいだったと思う。相手は忘れてしまったが、解説は石田芳夫だったと思う。

右の趙治勲の大石が取られて、厚みでも地でも僕にもはっきり分かるぐらいに圧倒的にリードされて、残り2つの大石はそれぞれ単独でも生死が怪しい状態で絡み攻めをくらい、しかもそのうちの1つが切られてしまい、さあどうなる、というところで、ずっと30秒の秒読みの中ギリギリで打っていた趙治勲の着手のリズムがさらに遅れた。
「あれ?いまの、大丈夫なのかな?」と僕は思った。

すると、画面が急に例の盤を上から見下ろす構図から両対局者を横から映すアングルに変わって、趙治勲のちょっと集中を欠いたような顔で盤よりややこちら側を見ている表情が映し出された。

その直後、これまで僕がNHKのすべての番組で聞いた事のないような原始的なブザー音が
「ブー!!」
と鳴った。


しばらくして解説室にカメラが戻った。
アシスタントの問いかけに対して、
「この石もこの石もこの石も単独でも怪しいです。全部取られても不思議はないです。地合いもはっきり悪いですね。」
と石田芳夫は答えた。

01/05/07

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