重いほうがヘビー

重いほうがヘビー


日曜日のN響アワーのサブタイトルは、
「クラシックは心の良薬」
というものだった。

番組は、冒頭の
「ああ、池辺先生様。私はあわれな壇ふみでございます。」
というノリのしらじらしくうやうやしい挨拶からはじまった。
私は失恋ばかりで心が苦しいのでございます。おお、池辺先生。こういう私はクラシックで癒されるのでしょうか、という具合だ。まったくウソくさかった
でも、そのウソくささがたまらなくよかった。
もとがそれなりだから、落としてウソくさくなる分には彼女はおもしろい。

今回は、池辺晋一郎、壇ふみの他に、もうひとりの人物がゲストとして来ていたことが大きな特徴だった。心理学者の富田隆なる人物である。
このタイミングで、彼が紹介された。


どんな気分のときに誰が書いた曲を聴くのがよいか、という話になった。
富田氏からクイズが出された。

1.集中力を高めたいときは?
2.仕事、組織に疲れたときは?
3.失恋したときは?
4.自分で自分が分からなくなったときは?
5.計画に挫折したとき、競争に負けたときは?
6.誰かとけんかしたときは?

ということで、池辺晋一郎、壇ふみがいろいろ予想を立てて、富田氏が解答を出していった。

池辺晋一郎、壇ふみのそれぞれに対する予想解答は、

3.失恋
池辺晋一郎:ショパン
壇ふみ:チャイコフスキー

4.自分が分からなくなった
池辺晋一郎:ブラームス、ハイドン

5.計画挫折
池辺晋一郎:ジョルジュ・サンド

6.誰かとけんかした
池辺晋一郎:シューベルト


1.ベートーベン
2.モーツァルト
3.チャイコフスキー
4.ドビュッシー
5.ショパン
6.バッハ

というのが、富田氏の用意した解答だった。

(ホンマカイナ)

というのが第一感だった。肝心なのは、作曲家ではなくて曲のほうだろうと。
しかし、作曲家ぐらいでおさえておかないと、「あの曲を聴け」では視聴者からの批判が来そうだよな。
が、共感できる部分もあった。

僕の感想としては、

1.集中力:ベートーベン
番組では5番を演っていたが、6番のほうが集中にはいい気がする。

2.仕事、組織に疲れたとき:モーツァルト
交響曲なら40番、ピアノソナタの10番、11番もいいと思う。

3.失恋:チャイコフスキー
これも、モーツァルトじゃないかなぁ。ピアノソナタの10番、11番。
チャイコフスキーの「アンダンテ・カンタービレ」が紹介されたが、あれがそれに有効なのか、僕にはかなり疑問だった。

4.自分が分からなくなった:ドビュッシー
ドビュッシーのことは分からない。番組で「小組曲から小船で」が紹介されたが、なんとも分からなかった。
僕は、条件次第ではラヴェルはいいかもしれない、と思った。
日常の通常的人間の神経に作用してやろうという心積もりは、ラヴェルの音楽からはほとんど感じられない。追いつめられているときに聴くのはどうかと思うが、普通の気分的疲れぐらいの状態だったら、けっこうオススメかもしれない。

5.計画挫折:ショパン
クラシックを聴くようになってからは計画も立てていないし、従って挫折もしていないから分からない。
個人的にはイエモンが好きだ。

6.誰かとけんかした:バッハ
構築系ということらしいが、僕の感覚としては違う。ベートーベンのほうがよい。
バッハはレールを敷いてその上を走ろうとしている。
けんかのあとで仲なおりがしたいなら、シナリオより調和だろう。

失恋に関しては、壇ふみはやけに熱心だった。
今回はそういう役回りだったのだろう。
3番の「チャイコフスキー」という解答がご名答で、壇ふみはよろこぶことしきりであった。
一生懸命で微笑ましいヤツ、と思った。番組の要求する役柄とのギャップがよい。


番組の中で富田氏が、ベートーベンを分裂気質だと過日の精神衛生研究家が指摘した、と言っていたが。
音楽を聴いている限り僕にはそういう印象はない。
粘着気質だというのもあったが、それはよく分からない。たとえそうだったとしても、僕とたいして変わらないぐらいだろう。

それよりも、彼に感じるのは調和だ。彼のいろんな曲を聴いてそう思った。
よくまわりの音が聞こえている、というか。
もちろんその「音」というのは空気の振動だけのことを指しているわけではないのだが。
すごく幅広く感じる世界があって、普通ならちょっと気がつかないような事柄どうしの関連とか、そこでのまた全体への作用とか、そういう全体の流れみたいなものがよく聞こえている人だ、という気がする。

トルコが強大な国家だったころの人だったんだっけ?
どうして彼がこういう人になったのかには、興味がある。


モーツァルトについては、「自然児」とか、「時代の常識にとらわれない」とか、そういうコメントが出ていた。きっと世間でよく言われているのだろう。

41番は最近楽しんで聴けるようになったのだが。
僕がこの交響曲について理解が足りないのは、僕が楽器の特性や作曲技法について何も知らないからなのではないかという気が最近している。
彼がこの交響曲でやりたかったのはそういうことのカラクリ技法を楽しむことで、作曲のきっかけ自体ははとても小さかったのではないか、というのが最近思うところ。
おそらく、40番のほうがきっかけとしてはよほど大きい。

もっとも、彼の曲の中からそういうものを探してくるのは至難の技だろうと思う。
きっと、いつも才能を持てあましていたのだろう。


富田氏から、次の心理テストが出された。

右と左に2つの箱がある。
どっちかに何かが入っている、さあ、どっちに入っている?というのが最初の問題。
次は、どっちかの箱はケーキ、もうひとつの箱は大きな蛇。さあ、どっちがどっちだ?
というものだった。

最初に選んだ箱が左で、その箱に蛇が入っていると思った場合:芸術家タイプ
最初に選んだ箱が左で、その箱にケーキが入っていると思った場合:研究者タイプ
最初に選んだ箱が右で、その箱に蛇が入っていると思った場合:タレントタイプ
最初に選んだ箱が右で、その箱にケーキが入っていると思った場合:経営者タイプ

だそうだ。
池辺晋一郎は研究者タイプ、僕もそうだった。
壇ふみは経営者タイプだった。社会的で、決断力があるそうだ。


富田氏から池辺晋一郎のダジャレについてもコメントがあった。

・自己顕示欲の現われだが、それが過剰なものではないからダジャレの形をとる
・自分を落とすだけのサービス精神がある

やさしい性格なのだけど自己主張もしたいというところだ、という指摘だった。
おおむね僕の見立てに似ている。


今回は、池辺晋一郎、壇ふみ2者のみの関係ではなくゲストも揃っての3者ということで。

壇ふみは主にゲスト、池辺晋一郎の話をはずませる役割で、特別な違和感も感じなかった。
むしろ、自分にミエミエな落し方をしてみせたりして、なかなか楽しませてくれた。

池辺晋一郎も1対1の関係ではないから自分のポテンシャルの逃がしどころも多く、興味を持って取り組めるようなテスト形式のゲストからの話題作りもあいまって、終始ゴキゲンで好調であった。

ダジャレも冴えていた。

5.の計画挫折でジョルジュ・サンドを出したときの、
「計画にうまく行っていたらヨンドだったのだけど。」

箱のどちらかに蛇が入っている、というところでの、
「これ、箱を持ってみたいんだけどいいかな?重いほうがヘビーってね。」

他にも、ケーキ回復とか言っていた。
はっきり言って、おもしろかった。

あと、もうひとつ非常におもしろかったのは、富田氏が箱を開けたとき、大きな蛇の入っていた箱を開けたときに、蛇がちょっと動いたのだが。
池辺晋一郎が、ちょっとズレたタイミングで、
「あ!動いた!生きてる!」
と、大きな声で叫んだことである。

(そんな。ちょっと動いただけじゃん。おおげさな)

と思って、僕はかなり笑った。


僕がN響を見はじめて、これで一応ひと月のサイクルが終わった。
来週は、
先生:池辺晋一郎、聞き役:壇ふみ
という、僕がはじめて見た構成になるらしい。
初めてその構成のN響アワーを見たときとどう印象が変わるか、注目だ。

それからもうひとつ。
池辺晋一郎のダジャレには、おもしろいものと聞いていて疲れるものがある。
どういうときにおもしろいものが出てきて、どういうときにつまらないものが出てくるのか。
来週は、シチュエーションによる出演者のポテンシャルにも注意しながら見ていきたいと思う。

01/07/10


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