依存症の時代

依存症の時代


「物質嗜癖(シヘキ)、プロセス嗜癖、共存嗜癖」

テレビをつけると、3つの依存症の分類が紹介されていた。

物質嗜癖は買物癖、プロセス嗜癖はギャンブル、共存嗜癖はたとえば恋愛依存症、他にもいろいろ紹介されていたが、そんな例が紹介された。


NHK教育テレビ「にんげんゆうゆう 依存症の時代(1)」
月曜から5夜連続、夜7:30からだ。テレビをつけたときは、もう7:30をまわっていた。

「高度経済成長期ならば、仕事をすれば自分のためにもなる、家族のためにもなる、会社のためにもなる、社会のためにもなる、と、仕事嗜癖になってしまってもよい、というような風潮であったとは言えます。でも、低成長時代を迎えた今となっては、それはどうなのでしょうか?」

臨床心理士の女性がそう言った。聞き役は、NHKのアナウンサーだ。


テレビでは、仕事、アルコールに依存していた、というAさん(37才)が紹介された。
Aさんは新聞記者だ。自分が仕事嗜癖なのではないか、10年前にそう思ったそうだ。

「仕事柄、四六時中常に緊張して、常に情報を追い求めていた。何もしない空白が恐かった。家には寝に帰るだけ。家庭もかえりみない。24時間でも仕事をし続けていたい。仕事をしているときが本来の自分、という気がしていた。仕事のつきあい、取材で酒を飲んでいたが、それも仕事の一部だと思っていた。しかし、そのうち酒が止まらなくなった。酒の量が異常に増えていった。そうなると、酒飲みだけで集まるようになる。そういう場で自分を高揚させて、また仕事をして、酒を飲んで。仕事のために酒を飲んでいたつもりだったが、いつのまにか、仕事と酒に自分をコントロールされるようになってしまった。」

彼の話はそんな感じだった。次に、奥さんの話がでた。

「とにかく、布団では寝ないんです。トイレにもちゃんと行けないし。いつも酔っ払って帰ってくるんですけど、見ていて、『本当に楽しいのかな?』って思っていたんです。」

これではイカン、と思って、彼はカウンセリングを受けるようになったらしい。
そうして、幼少からの自分を振り返っていくうちに、子どものころの環境に、今の自分につながる要因を見つけたそうだ。

「いつも成績優秀で、生徒会長なんかもやっていた。そういうことは、自分を厳しく育てた教員である両親の期待に応える、ということだった。自分は、いつも両親の期待に応えるべく生きて来た。
そのうち、いつも周囲の評価が気になるようになっていた。評価、評価。自分は、人に評価されることばかりを追い続けていた。そうして今でも、仕事、言動で評価されることばかりを望んでいる。自分の本来の中身がどう、とかではなく、とにかく自分は評価されることだけを求めて来たのだ。」

等身大の自分でありたい。そう思い至るようになって、彼は仕事の量も減らした。子どもの成長によくない、と酒も断つようになった。今では、休みの日は家庭で家族と暮らしている。
今日、彼は仕事でも趣味でも等身大の人間関係を構築していくことができるようになった。そして彼はそれがとても新鮮で楽しい、と感じている。

「これまでの生活がいびつだったことの裏返し、ですかね。」

そんなことを、Aさんは言った。


「依存症に落ちる人というのはマイナス評価を受けてしまうものですが、その実、探ってみるとそのパーソナリティーは意志が強く、まじめで、誠実で、不器用な人だったりするものです。そういう人が、強く自分を追いつめると依存症になってしまうんです。」

臨床心理士の先生がそう言って、目的と手段が逆転してしまう現象について述べた。
日常的な過度の緊張状態とそこから逃げ出している状態、というのをくりかえしていると、その逃げ出す手段、というのがいつのまにか目的になってしまう、とかそういう話だった。

「『もっとよりよい自分でなければならない』という意識は、社会から強制されているもので、それが過剰な緊張を生み出しています。そういう環境下で自分をセルフコントロールしようとしすぎて自分自身を追いつめてしまうとことがよくないのです。」

そんな話だった。
なんでもやりすぎはよくない、というところか。

そのあと過食症、拒食症の話になった。摂食障害だ。

「何故食べ物かというと、あるべき自己、理想の自己、そういうものを追いかけることを極限までしていくと、体をコントロールする、ということになってしまうんです。」

そういうことだったが、ちんぷんかんぷんだった。
「いいかげんに生きよう」
なんてスローガンが出て来た。あたりまえだ。

今日は、依存症の人を支える人が陥りやすい「共存症」について放送するらしい。


番組が終わってNHKの他の番組の紹介になった。出てきたのは、今日の夜放映の

「プロジェクトX」

だった。
ちょっと前の時代に仕事ですごくがんばってうまくいった日本人を紹介して称える、NHK総合の人気番組だ。
けっこう啓発系で、僕もこの番組は好きだ。
中島みゆきのテーマソングが流れて、H2ロケットの発射の映像が流れた。H2ロケット開発者たちの苦労を紹介し、成功を共に祝う、という趣旨のようだった。

僕は、入院前にこの番組で見た、液晶電卓の液晶を開発したシャープの開発チームのひとりのセリフを思い出した。

「家に帰る時間が惜しい。別居する。」

超仕事人間である彼は、仕事場と家を往復する時間があまりにも惜しくて、自分の女房にそう言い放った。

01/06/12


「供依存」につづく


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