しらべてサイエンス

しらべてサイエンス


そろそろ。
そんな時が来るのではないかと。
自分でも思っていたのだが。
今日、ついに。

昼間の教育テレビに釘づけになってしまった。


11:30をすぎていた。この時間は昼食のワゴンが階下から上がってきて、看護婦さんとヘルパーさんが食事を配っている時間帯だ。

ほんのちょっと自分をもてあそびぎみだったので、イソジンとコップを持って洗面台に行った。
うがいをして、帰り道に看護婦さんとちょっと話でもして、食事のトレイを受け取って帰ろうと思ったのである。

うがいをして、戻って来たところで、ワゴンがすぐそこにあった。
僕は看護婦さんに話しかけた。

「あの、僕のゴハン、すぐ出ます?」
ワゴンはけっこう大きいので、僕の昼ゴハンはすぐ取り出せないところにあるかもしれなかった。

「あ、こねさんの、ですか?ちょっと待って下さいね・・・。」

看護婦さんはちょっと探してくれたが、すぐには見つからなそうだった。

「あ、いや、べつに、いいです。」
「あ、そうですか。すぐに、持って行きますね。」
「いや、いいです。べつに。あわてないで、いいです。おなか、すいてませんから。」
「ははは。そうですか。」

やることがないから自分でゴハンを取りに行こう、と思っただけである。とくべつお腹がすいていて催促に行った訳でもない。かえって手間をかけさせては悪かった。

僕は、さくさくと部屋に戻った。


ゴハンが来るまで、どうしようか?
待てばすぐ来る、ということは分かっていたのだが、ただでさえ自分を持て余していたところだ。何か書きかけの文章があるわけでもない。眠くもない。

うーん、と思っていたとき、フと思った。

「こういうときは、教育テレビが、いいんじゃないか?」

このチャンネルでは、いつも何か特別なことが起こっている。こういう平凡な時間のアクセントとしては、絶好かもしれない。
日本代表でゴン中山を見るような期待感が、僕の中で湧いた。
教育テレビなら、ひょっとしたら何かやってくれるかもしれない。

今日は見ないことにしているイタリア語会話の日だったので、まだ朝から一度もテレビをつけていなかった。そのせいか、朝からなんだかいつもと違うリズムだった。

---チャンネルは昨日の朝「ロシア語会話」を見たきり、3チャンネルのままだ。テレビの電源を入れるだけで、僕は教育テレビの世界に入れる---

そう思い、僕は(まあ、実際はそれほどまでに期待していたわけでもなかったのだが)とりあえずテレビの電源を入れてみた。


電源を入れると、テレビからは、パドックに一頭だけ入った競争馬を真正面からアップで捉えた映像が流れて来た。
心臓の鳴る、ドキッ、ドキッ、という音が音響効果を持って鳴ってくる。
画面左に、心電図のようなギザギザの線が動き、表示された数字は盛んに動いた。

「・・・?」

どうやら、パドックに入った馬の緊張感を伝える趣旨の構成のようだった。
「馬の心拍数は、147まで上がりました。これから走る、ということが馬にも分かっていて、心拍数が上がるんです。」
女性のナレーションの声がした。

まだ話が見えない。とりあえずもうちょっと見てみよう。

画面が切り替わり、パドックを斜め横から見た映像に切り替わった。
小さい女の子の声がした。カツゼツのはっきりした、ちゃんとした声だった。

「馬は、走る前に、心拍数が上がります。人間がウソをつくときも、そうです。ウソがばれたら、逃げたり、闘ったりしなくてならない、と思うから、心拍数が上がるんです。

「・・・ (-_-; ?」

ナンだ?ナニが、言いたいんだ?ウソ?逃げる?闘う?
この競争馬を中心とした構成とその発言との真の関連は、ナンだ?

ますます話が見えないぞ、と思っていると、テレビの中のパドックが開いた。
馬は走り出した。


映像が切り替わった。NHKのスタジオ、という雰囲気真っ盛りだ。
中央やや左に、あまり印象に残っていないが、機械のようなものがあった。その左に学者さん、右には少年が2人、さらにその右に女の子がいた。3人は、小学校高学年、という感じだ。

学者さんは、子供に語りかけるように言った。
「このように、ウソをつこうとすると、心拍数が上がるんだよ。そのしくみを利用したのが、ウソ発見器なんだ。」
なるべくかみ砕いて説明したいが、これ以上できない、という調子の悪そうな口調だった。

すると、女の子がアップになって、学者さんのほうをしっかりむいて、学者さんに答えた。さっきの、カツゼツのはっきりした、あのちゃんとした声だった。

「なるほど。私たちの体は、とてもよく作られているんですね。」


しらべてサイエンス

と、タイトルが出て、番組は、そこで終わった。


3分見たかどうかも怪しかったが、よくわからん読後感だった。トルストイもすごいが、「しらべてサイエンス」もすごい。
何が言いたいのか分からなかったが、とにかくただものではない、とは思った。

・ウソをつくときに心拍数が上がるひきあいに、ナゼ、パドックの中の競争馬を出さなくてはならなかったのか
・学者さんは、ナゼ、ウソ発見器のしくみを少年少女に説明しなくてはならなかったのか
・人の話を聞いてるんだか聞いてないんだか分からない発言をくりかえすあの女の子のネライは何だったのか

等、疑問はつきなかったが、とにかく感動した。
さすがNHK教育テレビ。スーパー娯楽チャンネル。

01/05/28


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