シオダ君に感動

シオダ君に感動


「NHKロシア語会話」のオープニングソングは「永遠とは?」という曲だ。「オリガ」という名前のロシア人女性が歌っているのだが、まるでNHKの連続ドラマのオープニングのような歌だ。

レギュラー4人が登場した。左から黒田教授、シオダ君、デニース、オクサーナだ。先生は淡々と話し、あいかわらず日本人的無表情だ。オクサーナの赤の入った黒のGジャン上下と赤のジャケットの組み合わせはカッコよくてシックだった。デニースは、今日は右肩が下がっている。腰が悪そうだ。


今日のスタンダード40は「私はロシア人です。」とか、そんな感じだった。
スキットドラマがはじまった。

どこかのディスコのようなシーンである。音楽が流れ、最初のシーンでは多くの人が座っている。すぐそのあとに、後ろで人々が踊っているところに2人の若いロシア娘が会話するシーンに切り替わった。

(はじめに断っておいたほうがいいと思うが、ここから背景ではみな踊っている。そして、ロシア語会話スキットの常として、彼女等は当然無表情だ。合成映像のようだった。彼女等がなにか順番にセリフを発するたびに、画面はいちいち彼女等のソロに切り替わる)

「ねえ、リューダ、あれは、誰?」
「あれ?あれは、アンドレイよ。」
「アンドレイ?彼は、ロシア人なの?」
「もちろん、彼はロシア人よ。」
「じゃあ、あれは?」
「あれは、マイケルよ。」
「マイケル?彼はロシア人なの?」
「いいえ。彼はアメリカ人よ。彼は俳優なの。」
「まあ。素敵ね。あっちに行きましょう。」

背景は皆音楽にあわせて踊っているのだが、この2人は音楽に乗るでもない。固定されている。場のことはことはどうでもいいらしく、ひたすら淡白に無表情にこの会話を続けるのだ。本当に、彼女はマイケルというアメリカ人を素敵だと思っているのか?
ま、いつものありふれたロシア語会話のスキットだった。

それにしても、2人が同時に出てくるアングルでスキットを展開したほうが、撮影するほうも見るほうも好都合だと思うのだが。


スキットの解説が終わって、デニースがプレートを何枚か持って3人のところに入って来た。
たちまち、80年代にアニメや大衆娯楽ドタバタ劇のオチ前の展開で聞かれたような音楽がかかりはじめた。

プレートには今日の新スタンダード40にちなんで
「私は日本人です。」とか、
「彼はロシア人です。」とか、そういう日本語が書いてあって、シオダ君がそれをなんとか連続して読んでいった。
デニスは肩が右下がりで、腰が右に流れている。腰が悪そうだ。


教授、オクサーナがシオダ君に書き練習をさせるいつものシーンになった。
「私はロシア人です。」
はちゃんとできたのだが、
「じゃ、こんどは『私は日本人です。』ってやってみようか。」
と教授に言われると、シオダ君は

「エー?!」

と叫んで、目を剥いてオドオドと意味もなく周囲をキョロキョロした。

僕は、こいつホント舞台度胸ねえなぁ、と思った。
俳優に向いてないよ。


「次にデニースのおまかせスキット」のコーナーになった。
今回はシオダ君は、ちゃんとお尻を向けないで画面から消えていった。さては、スタッフに指摘されたか。

それより、この「おまかせスキット」は、今日はすごかった。
今日最大の見物だった。

青の背景(何て言うんだっけ?ペーパーに光を当てただけのヤツ)の前で、デニースとシオダ君がノリノリであるかのように踊っている。

そこに、オクサーナが踊りながら登場してくる。
デニースとシオダ君が
「あれはロシア人女性ですか?」
「はい。」
みたいな会話をしながら踊る。
そのうち、教授も踊りながら登場してくる。
「あれは日本人男性ですか?」
「はい。」
みたいな会話が、踊りながらなされる。

これだけで、「おまかせスキット」は終わった。あっという間だった。

全員の踊りがどうだった、とかはいちいち全部は指摘しない。だが、あえてシオダ君の踊りについてだけ言おう。
ひとことで言えば、彼の踊りは、およそテキトーだった。芸を売りにするために努力している人間が少ないチャンスをモノにしようとしているという気分のまるで感じられない、こんなのどうでもいい、という雰囲気満載の踊りであった。

(コイツ、俳優になるつもり、あるのか?)
さっきの舞台度胸のまるでなさそうなアドリブの態度のときにも(もっとも、もっと前から)思っていたのだが。
はっきり言って、彼は個人事業者には向いていない。およそ確定申告の似合わないタイプだ。

(でも、だからこそ、それでもNHKでレギュラーを張っている、という事実に僕は彼に興味を持つようになった)


今日は「ソローキンのロシア文学紹介」はなく、かわりにコサックの歌を聴くコーナーをやっていた。
「コサックは、スキ、ですか?」
煉瓦作りの家の中のようなセットに、ギターを抱え帽子をかぶり長髪の、ベトナム戦争のころに流行ったようなウラジミール某という男が登場してきて、日本語でそう尋ねてきた。

コサックの歌は、最初録音と映像で流れた。録音は古く、映像は夜の三日月だったり、野に咲く花だったり、いまどき使われないようなサッカーボールをひとりで蹴る少年だったりした。
「夕暮れ時に〜〜〜うとうとしていたら〜〜〜あーそして夢に現れた〜〜〜」
歌はそこで終わった。

今度はウラジミール某がギターを弾き、4小節ごとに歌を止め、日本語で歌詞を言い直しながら、その歌をもういちど歌い終えた。
「何ヲ、見タノカ、ここまデデは、まだ、分カリませんね。だから、来週も、見マショウ。」
最後にそんなことを言って、彼の登場シーンは終わった。
この曲の前奏のアレンジを彼が弾き、このコーナーは閉じた。


「ききかりじりのおろしあ」のコーナーになった。
今日はシオダ君が単体ではなく、4人の中のひとりとして登場したところで「ききかりじりのおろしあのコーナーです。」と言った。

今日は、ロシアで表現される動物の鳴き声がどの動物のものであるか当てる、という内容だった。
ここでもシオダ君はやってくれた。

「ミャォ」を「ネコ!」と元気よく当てたり、
「クワクワ」を「カラス?」と聞いてみて「カエル」だったりしたあたりまではよかったのだが。

「ガフガフ」と言われて、「ガブガブ食べるから、クマ!」とか言い出したのはまだよい。
最後には、「フリューフリュー」と言われて、オクサーナが「これは、言いたくないわ。」とちょっと笑いながら正解のブタの絵を見せると、

「これ、何なのか、先生に言ってもらいたいです!」

と、突然先生に振ったのである。なんか、彼をブタ扱いしてオチをつけたい、という雰囲気だった。
先生はちょっと戸惑ったようだった。
なのにさらに、そこでシオダ君は、こうだ、と言わんばかりに

「これですよ!フゴー、フゴー!」

と、自分の鼻を思いっきりならして上を向いてみせて、笑ったのである。これには、他の3人もびっくりしたようであった。
しかし本人にはたまらなくおもしろかったらしい。

(コイツ、売れる気、あんのか?)

たぶんあるのだろうと僕は思ったのだが、同時になんだか、僕はこの「俳優」を好感度の高い芸人への登竜門であるNHKの番組のレギュラーとして売り込むことにとりあえずは成功した芸能プロダクションと、このキャスティングを承認したNHK内の人物のこれからのことが気の毒になってしまった。

番組の最後にも、シオダ君は
「さようなりー。」
とか、たいしたことを言って閉めてくれた。
彼は、自分を支えてくれている人のことを、きっとまるで考えたことがないのだろう。


いろいろ書いたが、とにかく今日のロシア語会話もおもしろかった。
言いようによっては、シオダ君の魅力満載だった、とも言えなくもない。

その他、シオダ君の話題に呑まれて触れることができなかったが、イコン画家のバレンチーノさんのインタビュー、というのもなかなか興味深いものだった。

何度も書くが、僕はこの番組が好きである。
とにかく、こんなスキだらけの素材、いまどきのテレビではなかなか見られたものではない。

01/06/03


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