手軽に楽しむベジタブルガーデン
「くらし発見」の余韻にゆっくりひたっている間もなく、12時の時報が鳴って、
「悠悠趣味趣味 手軽に楽しむベジタブルガーデン」
がはじまった。
サブタイトルが出た。
「第8回 元気なイモを育てる」
ものすごく魅力的なサブタイトルだ。
どうすれば元気なイモが育つのか、僕は興味を持った。
ちょっと集中力が切れてきていて苦しいところだったが、こんなサブタイトルを見せられてしまっては、もう見ないわけにはいかなかった。
「くらし発見」のどこかのタイミングで看護婦さんが食事を置いていってくれたのだが、僕はそれにまだ手をつけられなかった。今は食事より、元気なイモを育てる方法だ。食事は待ってくれるが、テレビは待ってくれない。
どこかの園芸場のようなところでのロケだった。
園芸プロと、聞き役のおねえさんの2人がいた。
「5月はサツマイモ、サトイモの植えつけの時期です。秋の収穫を目指し、元気なイモを育てましょう!」
おねえさんが言う。
「今回はイモであることが特徴です。イモ自体を生かして植えつけることが重要です。」
園芸プロが言う。
「イモを生かすテクニックは、なかなか分からないものですよね。」
おねえさんが言った。
「イモを生かすテクニック」
すごい言葉だ。この番組も、タダモノではない。
僕の知らない世界がこれから展開されようとしている・・・。
そう思うと、番組のメモを取る手が震えた。
そろそろこのへんで念のために言っておいたほうがいいかもしれない。
その魅力に取りつかれてこのかた、僕はNHK教育テレビの語学番組を見るときには、スペイン語以外では必ずメモを取るようにしている。
(英語ビジネス・ワールドのときは、時間も20分と短く、番組全体を通してまるで隙がないので、せっかくノートを用意しても、メモを取るタイミングをいちばんよく逃してしまうのだが)
あたりまえだ。一回テレビを見ただけで、メモもなにもなしでこんなにいろいろ書けるものではない。
少なくとも、僕にはムリだ。
こんなにおもしろいことを、僕ひとりで独占してしまうのはよくないことだ。
僕は、何がどうおもしろかったのか、少なくとも僕のHPの読者ぐらいには伝えなくてはならない。
そう思って、僕はノートを取りながらNHK教育テレビを見ているのだ。
番組のあいだ中、日記帳にしているB4サイズのノートの後ろ側に必死にメモを取りつづけて、それを元にあとで再構築して「のいず」と書いている。あとになって何が書いてあるのか読めないときもあるが、そのときには必死になって番組で何があったか思い出している。
「しらべてサイエンス」のときは何気なくテレビをつけただけで、そこまでするつもりはなかったのだが。
最初のパドックのシーンのときの女の子の発言にクラクラときて、ノートを持ってきてメモを取りはじめたのである。
それっきり、休む間もなく、僕はずっとメモを取りつづけている。
でも、映像を見逃すのが惜しいから、メモを取るときは、ほとんどノートは見ない。
デカい文字のなぐり書きのノートは、「しらべてサイエンス」から、この時点で見開きまるまる2ページに達していた。
「まず、いちばんかんたんなサツマイモからいきましょう。」
そう言って、園芸プロはサツマイモの苗を取りだしてきた。
日当たり、水はけはよく、窒素は少な目に、ということであった。
「イモを植える、のではありません。」
と、園芸プロは言う。葉と葉の間を節間と言い、この間隔の狭いものを選び、その茎の部分を植えるそうだ。
水平植え、船底植え、という方式が紹介された。
10-11月が収穫期、霜が降りる前に収穫しましょう、ということだった。
つづいて、サトイモになった。
石川早生、八ツ頭、赤芽、という3品種が紹介された。
それぞれ、親イモ、子イモのどちらを食べられる、粘りが多い、少ない、などという違いがあるそうだ。
園芸場で、園芸プロにおねえさんがさらっと聞いた。
「先生、サトイモも、コンテナ栽培ができるんですね。」
コンテナ栽培?
コンテナなんて、無機質の象徴みたいなものだ。あれは何のためにあるのかと言えば、ひとことで言えば、それは物流コストの削減のためだ。炭素も窒素も水素も酸素もその主成分ではない。
その一方で、「栽培」は、有機物のためにあるような単語である。
この世には、「コンテナ」と「栽培」を結びつけるような言葉があるのだ。
それを知っただけでも、この番組を見た甲斐があったというものだ。
しかも、「サトイモも」だなんて。
このおねえさんにとっては、それは園芸植物におけるありふれたプロパティのひとつなのだ。
おそらく、この番組が想定している一般的視聴者にとってもそうなのだろう。
すごいぞ。NHK教育テレビ。
コンテナ栽培というのは要するに、畑でない一定のスペースを用意して、そこで栽培する、ということのようだった。ここでは、大きな麻袋に土を入れたものを指しているようだった。
ひょっとしたら、鉢植えなんかもコンテナ栽培というのかもしれない。
「葉っぱは観葉植物としても楽しめます。」
園芸プロは、そう言った。
麻の袋の中の土を少し掘り返して、園芸プロはサトイモを入れた。
「私の場合は、8cmから10cmぐらいの穴を掘って埋めます。」
サトイモ自体の話はこれで終わってしまうのだが、「これではしまらないですから。」と言って、園芸プロは、ラディッシュなどの短期で収穫できる品種を同じ袋に栽培してしまうことを推奨していた。
他にも、さらに驚くべきことに、麻袋の横の部分をハサミで切り、細長い筒のようなものを差し込んで穴を開け、そこにサトイモの茎を刺す、という栽培方法も紹介されていた。
そこから茎が伸びて、どんどん葉っぱが広がっていくらしい。すごい発想だ。
葉っぱが広がるので、観葉植物としていいですね、と園芸プロは言った。
「麻袋なら空気も入れ替わるし、見た目もいいですね。」
と、おねえさんは言った。
ここで、料理のコーナーになった。
料理研究家が出てきて、今回のテーマはイモ、ということで、金つばの作り方を紹介しはじめた。
僕もここで昼ゴハンを食べた。
この番組での料理方法の紹介は、簡潔で、非常にムダがなく、好感の持てる構成だった。
何も飾り立てをしていないのだが、シンプルに目標が見える料理コーナーだった。
イモの皮を落とすときに外側を思いっきり落としてしまって、その皮はあとで別の別の料理に使う。
6面をまんべんなく焼く。
この手の話には鈍いのだが、僕はゴハンを食べながらフンフン、と聞いた。
時計は見ていなかったが、もういい時間になった気がした。
コーナーはまた切り替わって、おねえさんが、どこかのお家の家庭菜園に来ていた。
そのお家の老夫婦、と思しき夫妻がにこやかに微笑んでいる。
「先週はどうのこうの、だったので、今週はトマト、ナスを植えます」
みたいなことを、彼女が言った。老夫婦はうれしそうだった。
どうも、毎週このお家の家庭菜園をいじっている、という雰囲気だった。庭の菜園スペースがいくつかに仕切られ、先週やったのはここですね、だから、全体のバランスが、という具合でおねえさんがいろいろ話をしている。
それで、さてどうするのかと思ってみていたら、おねえさんが、それからずっと、ひたすらひとりで庭いじりをしているのである。それを老夫婦はうれしそうに立って眺めているだけだ。
「・・・?」
ちょっと、疑問に思った。自分とこの庭なんだから、自分たちにやらせてあげればいいのに。
でも、どっちも不満はなさそうな感じだった。
最後に、最初の園芸場に戻って来た。
園芸プロは、「今日のことば」みたいな感じで、
「A good gardener always prays.」
と書いた紙を示した。
「日本語訳は、『園芸をする人は、いつも祈る』です。」
彼は言う。園芸をするときは、いいかげんな腰つきではなく、祈っているようなきちんとした前かがみの姿勢になってやりなさい、という意味です。
「私が先生から学んだ、とても大事なことです。」
彼はそう言った。そして、植物に話しかければ、必ず通じる、とも。
彼がそう言うと、なんだか説得力がある。うーん、さすがプロ。
番組は終わった。
次回は、「とれたて野菜でジュースを」だ。
これも、きっと見逃せない。
さすがNHK教育テレビ。スーパー娯楽チャンネル。
やれやれ、やっと終わった。さすがに疲れたな。ふぅ。
と思っていたら、また恐ろしいことが起こった。
「名曲アルバム」
が、はじまったのだ。
01/05/28
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