「...まあ、なんでもいいんですよ。5人でも6人でも、10人でも11人でもね。もう犯人は分かってますから。犯人はあなたですよ、ジェファーソンさん。」
「え?」
「え!」
執事の連れてきた3人の紳士は驚きの声をあげた。トムは唖然として口を開けた。
「え?私、ですか?」
「そう、あなただ。」
警部はそう言って執事の手をとり、手錠をかけた。やおらに後ろ手をとられた執事はひどく苦しそうに顎をあげた。
「でも、私が、どうやってマーガレットさんを殺したと?」
「そう、あなたが殺したんだ。いや、直接的にはあなたではないかもしれない。でも、結局あなたが殺したようなものだ。」
トムが言葉を失っている間にも、警部は続けた。
「あなたの部屋を見させていただきましたよ、ジェファーソンさん。そして、私は見つけたんです。あなたの部屋の『プッチーニオペラ全集』から、『トスカ』だけが抜け落ちていることをね。その楽譜は彼女の部屋にあった。そして、彼女はそぷらのだ。」
「......。」
執事の目が一瞬狼狽にたじろんだ。彼の連れてきた3人の紳士の間にも、痛烈な緊張が走った。
「もうお分かりでしょう。彼女の部屋から聞こえてきたのは、悲鳴じゃない。ありふれたそぷらのの練習の声だったんです。そして、練習中にトスカになりきって感極まった彼女は、第3幕のシナリオのように、窓から勢いよく飛び降りてしまった。しかも、そぷらのはもともと高いところから降りるのが苦手だ。」
「......。」
「彼女の目に止まるところに『トスカ』の楽譜を渡せばいずれそうなるということは分かっていた。そういう彼女を知っていて、あなたはそれでも『トスカ』の楽譜を渡した。それだけで、もう殺人事件としては十分に成立します。あなたは楽譜を渡してしまえば、あとは自分のアリバイだけに気をつけていればよかったんだ。」
「あの楽譜は、私がマーガレットさんの部屋に置きわすれていたものなのです......。」
「それだけ聞ければ十分です。」
警部が続けて被疑者の権利について説明しているあいだも、トムは最初のとおり口を開けたままその横顔を見ているばかりであった。
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