気分次第で話題不足の夏の日差し

気分次第で話題不足の夏の日差し


昨日はミンザイを10:00前に飲んだ。最初に目が覚めたのは1:30ごろで、起き出したのは4:30ごろだった。

まず僕はうがい薬と日記帳、CDプレーヤーとCDのセットを用意した。それからちょっと考えて、amazom.co.jpからおとといとどいた何冊かの本のうちのひとつをさらに手に取り、いつもどおりまずトイレに行った。
トイレに着いたところで、気がついた。

「あ、紙コップを忘れた。」
平日朝イチには用意された紙コップに尿をいくらか取らなくてはならなかった。
さてどうしようかと思いつつトイレに入ってみたら、夜勤の看護婦さんがちょうど機械の手入れをしているところだった。

「紙コップ、忘れちゃいました。どうしましょう?」
僕がそう聞くと、彼女はじゃあこれを使ってくれればなんとかします、と、そこにあった別の人の名前の入った紙コップを用意してくれた。
僕が日記用に持っていたボールペンですぐにその名前の部分を修正すると、彼女はナハハ、と笑った。

「いや、こんなこともあろうか、と思って。」
「ナハハ。」
「いや、冗談ですけど。」

そんな事態が想定できるようなら、紙コップを忘れたりはしない。


外は曇りのようだった。ロビーに行って窓の下を見てみると、今日は五差路のようになっている交差点のところで工事をやっていた。ちょうど何かの区切りなのか、信号の向こう側のところで作業員が何人か座り込んで休憩しているのが見えた。手前の交差点のところでは、中型のトラックがアスファルトだかなんだかを道に流し込んでいるところだった。
僕は、なんとなく警備員の配置を確認した。警備員のアルバイトは、僕もやっていたことがある。この時間になれば交通量も少ないし、交差点とはいえ頻繁に両側からの交通があるようなところでもない。割と簡単な現場だろうな、と僕は思った。

日記を何か書こうと思ってはみたが、何も書く気が起きなかった。昨日の夕方に一度時間を見つけて書けることはちょこっと書いてしまっている。最近このパターンが多い。
それから起こった出来事といえば、家族が見舞いに来たこと、テレビを見たことぐらいだ。見たテレビの内容はもうHPにアップしてしまっている。

あんなことを考えた、とか、こんなことを考えている、とかなら行を埋めるだけの目的でまだまだいくらでも書けそうな気分だったが、それほど目新しいことを書ける気もしなかった。
ソファの上であぐらをかいて、僕はしばらく何もしないでいた。
つまりは、気分的に話題が不足気味だった。

僕は、持って来た本を読んだ。それは前から読みたかった本だったが、分量が多くて、何が書いてあるのかは僕にはもうだいたい分かっていて、しかもちょっと高価な本だった。
それでも僕が買ったのは、その中に、僕がときどきうっかりすることがしっかり書かれてあるからである。
どこからでも読めるようになっているその本を、僕は頭のほうの昨日の続きあたりから読んでいった。

それも適当なところで飽きてしまった。僕はソファの背もたれのところまで上がって、仕方なく日記を書きはじめた。もう知ったようなことばかりを書いている。昨日書いてしまったかどうかの記憶もあやしい話題ばかりだ。同じことをうっかり書いてしまうのも気が引けるが、だからと言って昨日の記述を調べるのも面倒だ、そう思いながら僕は適当にだらだらと日記を書き連ねた。
退屈な作業だったが、なんとか半ページを埋めることができた。

ペンがとまったところで外を見たら、東のほうからだいぶ明るくなっていた。
どうやら今日は曇りではなく晴れらしい。さっきはまだ明るくなかったから空気中の水分ばかりが見えて曇りに見えたのだろう、と僕は思った。
工事現場では、再び作業員が展開して何かの作業をしていた。

僕はCDを聴こうと思った。まだ日記を書ききった気はしなかったが、とりあえずそっちは後回しにすることにした。近いうちに聴きそうな気がするCD何枚かとCDプレーヤーをセットにして入れてあるプラスチックのケースから、僕はどれを聴こうかといろいろCDを取り出してみた。
ブラームスの「大学行進曲」と「交響曲1番」がセットになったCDを選んだ。はじめて聴くCDだ。僕はCDの入ったフィルムを破った。

「大学行進曲」の印象は残っていない。交響曲に関しては、ずいぶん人に配慮して書いているな、という印象を持った。配慮ばかりが感じられて、肝心の彼の音のほうはよく聞こえてこなかった。

曲の途中で現場作業は終了していた。僕がふと見るといつのまにかに交差点の障害物は取り除かれていて、警備員は警備用の服装から各々の自由着に着替えているところであった。
「国土交通省か。」
意味も無く僕はそう思ってみた。まるで意味が無い。

今日はフロアにクーラーが入っていた。そして、僕はパーカーをパジャマの上に着ている。
今日は気温は何℃まであがるのだろう?
天気。梅雨明け。夏。気温。日差し。。。
いろんな気象用語があった。今の僕にはある意味無関係だ。

もうちょっと気が向いて、僕は少し日記を書き足した。
工事現場の様子を上から見た絵を描いて警備員の配置に印をつけてみたり、昨日見舞いに来た家族とこんな会話をしたと書いてみたり、そんな程度だった。
ブラームスは、まだ続いていた。

そのうち、看護婦さんがやってきて、僕の視界に入るような位置取りをしてから血圧計を目立つように振った。
「ああ、はい。」
僕はイヤホンをはずして右腕を伸ばした。

「なんか、いつも早いですよね。」
「ああ。はい。だいたい、4時半から5時半の間ぐらいですね。」
起床時間のことだ。彼女は、割とおとなしい感じの人だ。

「自然に目が覚めるんですよね?目覚ましとか、無いんでしょう?」
「ないす。目、覚めちゃいます。」
「えー、そうなんですかぁ。あー。でも、すがすがしそうですよねぇ。」
「うん。すごいいいっす。」
僕は、朝の空気の雰囲気がだんだん変わっていくのを見るのがおもしろいとか、車とか人とかを見るのがおもしろいとか、のんびりCDを聴いたり日記を書いたりするのがおもしろい、とかそんなことを言った。
彼女は、そんな時間に起きるのは自分には無理だ、と答えた。

血圧の測定を終えて、体温を測った。彼女はその間に、僕の状態に関するいくつかの簡単な質問をした。
「あー。でも、今日も暑そうですよね。昨日も暑かったんですよー。」
窓の外を見ながら、彼女がそう言った。そう言えば、昨日はそういう趣旨のメールを何通かもらった気がする。おとといテレビで見た昨日の天気予報でも、最高気温32℃とか言ってた記憶がある。
「うん。でも、実感ないです。」
このフロアから出ないからだ、と僕は続けた。

「あー。私、昨日夜からだったでしょう。夕方に家を出てドア開けたとき、『ウ!』とか思いましたよ。もう、暑くって。」
「そうかぁ。」
「今ごろ退院する人は、外との差が大きくて大変だと思いますよ。」
「M君、とかか。」
昨日M君は退院していった。彼のおかあさんが、包みに入れたテレビカードを大部屋の全員に配っていった。彼女はとてもうれしそうだった。
「腎臓の人、とかは特に大変だろうね。ヘタしたら、日焼けで再発だから。」
僕はそう言ってみた。正確には、腎臓の人ではなくて、ネフローゼの人だ。むやみに日焼けはできないらしい。退院直後に海で日焼けして再発して再入院した人がいた、と、僕は病院に入ってからある先生に聞かされたことがある。
「あー。そうですねー。」

体温計の音が鳴った。彼女は体温計を受け取り、どこかへ行ってしまった。
僕は時計を見た。6:30をすぎていた。
僕はCDプレーヤーを見て、CDのケースを見た。あと2分ぐらいで、そのブラームスの交響曲は終了するようだった。

(これの最後だけ聴いてから、部屋に戻ろう)

そう思って、僕は再びイヤホンを耳に入れた。

01/06/28

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