ポセイドン

ポセイドン


点滴をしている患者さんは、移動するときには専用の棒っ切れの先端に自分の点滴パックをつけかえて歩く。

先端は両側にスプレッドしておのおのにフックがつけてあって、、いちどに2つまでの点滴パックをぶらさげることができる。

僕はこの道具の名前をしらなかったのだが、入院してすぐ、これを持ってあるく患者さんを見たとき、僕の中でのその名称はすぐにつけられた。

---ポセイドン---

そう、その姿はまさに海王ポセイドン、と呼ぶにふさわしかった。
片手に三つ又の槍をたずさえ、姿勢よく、仰々しく歩く様はまさにポセイドンである。

病棟内をパジャマでフラフラとうろつくだけのただの入院患者も、このアイテムひとつがあるだけで、体に点滴の管が入っているにもかかわらずその目的を達成するためにどこかにいかねばならない、という強い決意を持った人間となるのだ。

僕は、この病院でこのアイテムを「ポセイドン」と呼ぶことを普及させようと決めた。


腎生研の日に点滴を始めて、僕はこの海王の槍を手に入れた。
昼前の検査が終わって夕方に安静解除になったとき、僕は看護婦さんにお願いした。

「あの、点滴ぶら下げるヤツ、欲しいんですけど・・・。ポセイドンみたいなヤツ。」
「え?」
「あの、点滴持ってうろうろするときにある、長いアレです。」
「ああ、あれですか。いま持ってきますね。」

しばらくして、看護婦さんがポセイドンを持ってきた。僕は尋ねてみた。
「これ、なんていう名前なんですか?」
「ええ? ・・・さぁ。 『手押し』かなぁ?」
「名前らしい名前、ないんですよね?」
「うーん、ない、と、思います。」
「じゃあ、『ポセイドン』にしましょうよ。三つ又で、仰々しくて、カッコよくて、いかにも『ポセイドン』、とう感じじゃないですかぁ。」
「あー。『ポセイドン』ですか。面白いこと、言いますね。へー。」

なかなか、いい感触だった。

それからも、僕は何か機会があるたびに、このアイテムを引き合いにだして、お医者さん、看護婦さん、ヘルパーさん、誰かれかまわず、
「ポセイドン、ポセイドン」と繰り返し熱唱している。
いまのところ、それなりに好評な気がしている。

この努力が実るかどうかはよく分からない。
でも、やるだけやってみようと思う。

だって、そのうち世界中の病院でこれが「ポセイドン」と呼ばれるようになったとしたら、とっても愉快じゃない♪

01/05/12

その後、「ポセイドン」は、「ランナー」という名前なのだ、とあとで別の看護婦さんに教わった。
「でも、ポセイドンのほうがいいですよね。」と僕は彼女に頑なに主張したのだが、彼女からは
「じゃ、こねさんの中ではポセイドンでいいです。」と軽く言い放たれるばかりであった。
でも、めげないぞ。

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